第13回_大江戸バッドガイズ千里行

2015年 大塚萬劇場
主催/THE☆JACABAL’S〈ザ☆ジャカバルズ〉
脚本/阿部 ぽてと

~~~第13回~~~

【第九場】

   乗松屋。

   袖前に看板と長椅子がある。

   袖奥が店という体で。

   桶と柄杓を持ち打ち水をしている辰五郎。

   そこにやって来る小早川・平林。

小早川  おい、店主はおるか?

辰五郎  はい……(店に向かって)旦那様、お客様です。

   乗松が出て来る。

乗松   これは、小早川様。

小早川  すまぬな仕事中に。

乗松   いえ……何かご用で?

小早川  少々聞きたいことがあってな。

乗松   左様で御座いますか……中へとお通ししたいのですが、少々散らかっておりまして……何せ、元々の呉服の他に、傘や提灯、茶道具まで置かせて頂く様になりまして……足の踏み場が。

小早川  景気が良さそうで、何よりだの。

乗松   御蔭さまで。

小早川  ……なら、ここでいい。

   と、長椅子に座る。

乗松   すみませぬ……辰五郎お茶を。

辰五郎  はい。

   と、奥にお茶を取りに行く。

乗松   聞きたいこととは?

小早川  お主、先日夜道で襲われたそうだの。

乗松   ……。

小早川  何故、奉行所に届け出なかった?

乗松   ……届けようと思ったのですが……忙しくて、つい。申し訳ありやせん。

小早川  店主殺しにあって生き残ったのはお主だけだ。見たことを全て教えてもらいたい。

乗松   そう申されましても……

小早川  何でもよいのだ、店主殺しの姿をその目で見たのであろう?

乗松   夜も遅く暗かったので、ハッキリとは……その者が本物の店主殺しかも分かりませんし、悪党は他にも沢山おりますから。

小早川  ……。

平林   よく助かったな?

乗松   ありがたいことに偶然、江戸の用心棒様が通り掛って。

小早川  用心棒だと?

乗松   はい、その方が追っ払って下さって、こうして今も無事に。

小早川  ……。

乗松   見事な腕で御座いましたぞ。江戸と言わずこの乗松屋の用心棒になってほしいと。

小早川  (遮って)奴の話しなど、せんでよい。

乗松   ……。

小早川  与力である儂がこうして自ら見回りに出張っておるのだ。江戸も乗松屋も守るのは儂であろう。

乗松   はぁ。

小早川  それとも……儂には守れぬと?

乗松   いえ、そのようなことは決して。

小早川  この後は特別に、お主の店も頻繁に見回りに来てやる、ありがたく思え。

乗松   ……それは心強い、いつまた店主殺しに襲われるか気が気ではなかったので……ありがとうございます。

小早川  うむ……それで乗松屋、それはどういうことか……分かっておるな?

乗松   はい?

小早川  はい、ではない。儂がこの店を特別に守ってやると言っておるのだ……分からぬのか?

乗松   ああ!? ……もちろんで御座いますとも。

   と、袖下を小早川に渡す。

第14回へつづく

次回公演

真田黙示録

2020年 8月19日(水)~23日(日)
シアターχ(東京・両国)
作 /江戸川崇(カラスカ)
演出/重住燎
主催/THE☆JACABAL’S〈ザ☆ジャカバルズ〉
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