第1回_大江戸バッドガイズ千里行

2015年 大塚萬劇場
主催/THE☆JACABAL’S〈ザ☆ジャカバルズ〉
脚本/阿部 ぽてと

~~~第1回~~~

【第一場】

   林の中。

   月明かり、フクロウの鳴き声が聞こえる。

   あやめ、いちかが駆け込んで来る。

あやめ  (走って来た方に向かって)ちょっと、早く来なよ。

   芝助と二郎がやって来る。

   一つの千両箱を二人で持っている。

芝助   うっせいな、こっちは千両箱持ってんだぞ。

二郎   芝助さん、やっぱオラが一人で持った方が早いんじゃ。

芝助   あん!? そう言って、テメェ一人で持ち逃げするつもりだろ。

いちか  馬鹿言うんじゃないよ、アタシがいるのに二郎がそんなことする訳ないだろ。

芝助   テメェがやらせるかもしんねぇだろ、お前等姉弟は信用ならねぇからな。

いちか  仲間を信用出来ないなんて悲しい男だね。

芝助   詐欺師を信用しろってのが無理な話しだろ。

あやめ  言い合いしてる場合じゃないでしょ、グズグズしてると追ってが来るよ。

芝助   来やしねぇよ、そこら辺は向こうで上手くやってくれてんだろ。ここらで一息入れようぜ。

   と、千両箱を椅子にして座る。

あやめ  ちょっと!

いちか  しかし、こんな上手くいくなら一つと言わず全部持ってくれば良かったね。

芝助   全くだ。

二郎   そ、それでも大金だ。

芝助   そりゃそうだけどよ、全部盗めば一生遊んで暮らせたんだぞ。

あやめ  盗むのは一つ、そういう命令だろ。派手にやり過ぎるとバレちまうから。

芝助   目の前のお宝に目瞑ってよ……小さい盗みでチマチマ稼いでるのが馬鹿らしくなるじゃねぇか。一生分の金さえ手にすりゃよ、お前だってスリをしなくていいんだぞ?

あやめ  ……。

いちか  ねぇ……この金アタシ等だけでいただくっての、どうかな?

一同   !?

二郎   な、なに言ってんだよ姉ちゃん!?

いちか  千両あるのに、アタシ等一人の取り分なんて百両ないんだよ。

芝助   そんなことして見つかったらタダじゃ済まねぇだろ。

いちか  肝玉の小さい男だね。

芝助   何!?

いちか  江戸から離れて遠くに逃げれば、あいつ等追って来れやしないよ。千両あればさ、アタシ等どこでだって生きていけるだろ?

芝助   ……確かに!

あやめ  無理だよ。

一同   !?

あやめ  アタシ等は、アイツに飼われている罪人なんだ。アイツから逃げることなんて出来ない……アタシ等を縛ってる手綱を離したりなんかしないよ。

一同   ……。

   徳丸愛之進がやって来る。

一同   !?

芝助   同心!?

   と、身構える。

徳丸   お前達、馬面一味ではないな……その金は佐々木屋から盗んだ金か?

いちか  ……違うって言ったら信じてくれるのかい?

徳丸   無理だな。佐々木屋からお前達が逃げて行くのを、この目で見ている。

いちか  だったら下らない質問するんじゃないよ!

徳丸   馬面一味が佐々木屋を襲うという情報は得ていたが、まさかそれに乗じて盗みに入る奴等が居るとはな。気づけて良かった。

芝助   あいつら何やってんだよ、クソッタレが。

あやめ  だから早く逃げようって言ったのに。

   と、ゆっくりと詰め寄る

   ジリジリと後退するあやめ達。

第2回へつづく

次回公演

真田黙示録

2020年 8月19日(水)~23日(日)
シアターχ(東京・両国)
作 /江戸川崇(カラスカ)
演出/重住燎
主催/THE☆JACABAL’S〈ザ☆ジャカバルズ〉
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