2015年 大塚萬劇場
主催/THE☆JACABAL’S〈ザ☆ジャカバルズ〉
脚本/阿部 ぽてと
~~~第36回~~~
佐川 ここに書いてある乗松屋の仕入先、元は店主殺しで潰れた店と契約していた店だ。格安で卸すことになっても、卸先がなくなり困っていた店、乗松屋はありがたい存在だったろうな。
真澄 当然です、父上は困っていた店から、商品を引き取り売っていたのですから。
佐川 表向きはな。裏では回りの店の店主を殺し、店を閉めなければならぬ状況に追い込んでいた。
真澄 !?
佐川 安い仕入先を確保するだけでなく、沢山ある店が減っていけば、客は残された店に集中していく。乗松屋が短期間で繁盛店になったのは、至って単純な理由だ。
真澄 言いがかりですよ。繁盛店になったのは偶然で……
佐川 忍びがいたのも偶然か?
真澄 ……。
村雨 忍び? 馬鹿な!?
徳丸 村雨殿は、知らなかったんですよね。
村雨 当たり前だろ! 儂はただの雇われた用心棒、内情のことなど。
真澄 嘘つくんじゃねぇよ!
一同 !?
真澄 アンタも知ってんだろ? 知りながら用心棒やってたんだろ。
村雨 真澄殿?
真澄 バレちまったならもういいや。全部話すからさ、罪軽くしてよ。って言っても、アタシ娘ってだけで無理やり父親にやらされてたんだからな。それって罪になるのかよ?
長尾 お前は乗松の娘ではないだろ、フリをしていただけだ。
真澄 !?
長尾 悪いが、調べは付いておる。奉行所に籠っての調べ事は得意なのでな。
真澄 チッ、クソが。
長尾 そしてお前の調べもついておるぞ、村雨菊一。
村雨 何!?
長尾 いや、人切り源三と呼んだ方がいいか?
徳丸 人切り?
長尾 この男、京都で人を斬りまくっていた大罪人だ。江戸に逃げて来て、最初に斬ったのが悪党だった、それがキッカケで江戸の用心棒などと呼ばれ、浮かれて罪人が心変わりでもしたか?
村雨 ……おのれ。
吉兆(声)馬鹿な男よのう!
一同 !?
吉兆・松本、出て来る。
吉兆 何が変わろうとお前の罪は消えぬぞ。
徳丸 吉兆!?
佐川 お前、今更何しに来た?
吉兆 今更とは何だ! お前達が乗松屋に踏み込みやすいように、この男を足止めしていたのだ。なぁ松本。
松本 お、おう……
吉兆 よって手柄はここに居る五人、いや後から来た長尾を除いた四人の物となる。
一同 ……。
吉兆 村雨……観念いたせい! 松本。
松本 ……。
吉兆と松本、村雨を捕えようとする。
吉兆 羽白は返してもらうぞ。
村雨 !?
村雨が吉兆の手を斬る。
吉兆 グワッ!
松本 吉兆!?
村雨が暴れ回る。
真澄も付けていた髪飾り、もしくは長尾の小刀奪い逃げようとする。
真澄は抑えられ、村雨だけが逃げ延びる。
徳丸 おのれ!
松本も追いかけようとする。
佐川 松本、吉兆を医者に連れて行け。
松本 追わなくていいのか? あ奴一人では。
佐川 逃げられても網は張ってある、あいつが返り討ちに合わないかの方が心配だ。
松本 ?
吉兆 松本、医者に……
松本 大した傷ではなさそうだが?
吉兆 黙れ! 佐川、分かっておるな、あの男逃がしたが、その前に足止めしたのは儂だ。儂にも手柄はよこせよ。
佐川 分かっておる。
吉兆 松本、連れてけ。
松本 ……。
吉兆、松本ハケる。
長尾 すまぬ、油断した。
佐川 その娘を奉行所に連れて行け。今度は逃げられぬようにな。
長尾 ああ。
真澄 クソがっ。
長尾 お主、しくじるなよ。
佐川 ああ。
長尾・真澄ハケる。
佐川 ……。
佐川、ハケる。
第37回へつづく
次回公演
「真田黙示録」
2020年 8月19日(水)~23日(日)
シアターχ(東京・両国)
作 /江戸川崇(カラスカ)
演出/重住燎
主催/THE☆JACABAL’S〈ザ☆ジャカバルズ〉
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